「わじゅーる? なぁに、ソレ。飲み物の名前??」
楽は心底驚いた。ストレシアで唯一有名な街、ワジュールを知らないとは!
楽が変な顔をしているのを見てリーザが慌てて言い足した。
「あ、あのねっ。実はさぁ、私の故郷ってあんまり外界の事に興味ない感じなの。自分たちは勝手にやります〜ってふうかな。協調性が無いのかも」
「そうでしたか……。ワジュールっていうのはストレシアにある街の名前ですよ」
「へぇぇ。楽ちゃん、物知りねぇ」
夜には、やはりまた追っ手が来ているようだった。しかし、誰かが近づくとシェプシが気づくので、難なく追っ払うことができた。もちろん、シェプシがいなくとも、楽はちゃんと気づくのだが。
合流して1日目の夜。
楽はテントの外に出て、満天の星空を見ていた。
やはりマントを着ていても寒いモノは寒い。すると、ガサゴソとテントの中で音がしたかと思うと、リーザがそろりと入り口から顔を出した。
「ねぇねぇ楽ちゃん。……あのさぁ……」
リーザにしては珍しく、何か戸惑っているようだ。楽は、どうしたんですかと聞いた。リーザはしばらくもじもじしていたが、笑わないでねと前置きしてから言った。
「あのね、今そっちにお化け、いないよねぇ?」
楽は目が点になった。一瞬固まったが、ついに耐えきれなくて笑い出した。
「あはははは。お化けですか。いませんよ、こっちには」
「笑わないでって言ったのに!」 リーザは顔を真っ赤にして出てきた。
「でも、一体どうしたんです? こんな時間に」
リーザがローブを着て、楽の隣にすわった。そして、楽に聞いた。
「ワジュールって、お花咲いてるわけないよね」「花?」
リーザは聞いてから、自分でも何てマヌケな質問をしたんだろ、と思った。
砂漠地帯に花など咲くわけがない。返ってきた楽の返事を聞いて、リーザはやっぱなぁ、と思った。
しばらくそこで二人で話してから、テントの中に入ろうと言うことになった。
すると突然、テントが大きく揺れたかと思うと、ざぁっと大量の砂がこぼれる音が聞こえた。
リーザはとっさに槍に手をかけ、外へ飛び出した。
楽もさっとテントから出てきた。
そとには、巨大な柱が建っていた。いや、柱だと思ったのは長くて太い胴体だった!
それはまるでヘビの様だった。化け物サイズのヘビ。
楽が叫んだ。
「リーザさん! 早くテントの中へ!!」
しかし、リーザは入らなかった。槍を構えて、こう言い放った。
「あのね、楽ちゃん。私、子どもじゃないんだから。私だってやれるわよっ!」
リーザの表情はひどく落ち着いていて、戦闘慣れしているようだった。
楽が刀で斬りかかったが表面が堅すぎてビクともしない。
尾を振り回して楽に襲いかかってくる。楽がよけた間に、ヘビはリーザに襲いかかった。
「フン!」そう言ったかと思うと……彼女はヘビに飲み込まれた。
楽は驚いて、今見た光景が信じられなかった。死んだのか!?
そう思った瞬間、ヘビがまた襲いかかってきた。「くそっ!」
そう叫んで一撃を繰り出したが、やはり効かない。……と。
ヘビが体を反ったかと思うと、腹の皮がやぶれ、中からリーザが出てきた。
体中血に染まりながらも、平然とした顔で笑っている。
「ね♪ ちゃんと倒せたでしょっ!」
楽はあまりのことに声が出なかった。何てむちゃくちゃなことをする娘だ……。
ごごご……。地面が揺れる。
そのヘビが砂に飲み込まれていく変わりに、何かが姿を現した。
それは……古い、忘れられた遺跡だった……。